東夷西戎鋭意合作

秋風立ちぬ

まうまうと砂埃舞ふ家屋の解体現場。
屋根瓦が全て下ろされ、部屋の中から全ての家具が運び出された伽藍堂を、蟹の爪夾みのやうな重機が掴みかかり、握り潰していく。
屋根裏の大きく曲がった梁や、新建材の壁が引き千切られ、掴み砕かれ、砂埃と共に足下に崩れ落ちてくる。
本来なら、重機の近くに何人かの作業員が付いてゐて、埃が立たないやうに常に水をかけ乍ら作業を行ふべきなのだらうが、区画整理の真っ最中で近くに水道栓が無いのか、水も撒かずに作業してゐる。
さすがに西側の側壁から屋根部分に爪が到達すると、瓦の固定に使はれてゐた赤土が全て土煙となって辺りに立ち込めるため、至近で工作活動中であった我輩が作業員に注意せむと歩み寄ってみれば、果たして彫りの深い濃い眉毛をしたガイジン様でござった。
大きな紙マスクをしてゐたのでよくわからんかったが、此の地方に多い南米の日系人風でもなく、顔つきや雰囲気を見る限りイラン人のやうでもあり、どことなくパキスタン人のやうでもあった。
肝心の砂埃問題のことも忘れ、「お前様は何処から来たあるか」と尋ねると、意外にもトルコ人とのお答へ。其ノ後暫く小休止となったので、あーだのこーだのとトルコの話題で奇妙な会話を続けたことは言ふまでもない。
イスタンブール出身の此の若者、聞けば26歳で来日して1年半。いくらトルコ語と日本語が言語的文法的にはほぼ同質の構造を持つとはいへ、日常会話には全く問題ないほどの日本語レベルに驚く。どのやうないきさつで来日し、当地の解体業者に就労してゐるのかは知らんが、今では屑鉄回収だの家屋解体だの、辛くきつい仕事分野にはほぼ満遍なく外国人様が従事し、我が邦の底辺の其処此処を支へてゐるのだ。
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秋風立って埃も立って、工作現場には独自のシフトに従ひ新たなグループが参集。またゼロからのコミュニケーションを倦む理由は何処にも無いが、我輩の当地での残り時間もそこそこ多く非ずむば、ほどほどに淡交為すべし。