「二分心」衰退の六段階

時の支配者

1.「特定地域における神託」:もともとは、たんに特定の条件を満たす土地が神託地となった。具体的には、畏怖の念を抱かせる景色があったり、かつてそこで重要な出来事が起きていたり、波、水、風といった幻聴を誘う音があったりしたために、神託請願者がみな神々の声をじかに「聞く」ことができた場所だ。レバデイアがこの段階にとどまったのは、尋常ならざる「誘導」があったからだろう。
       
2.「神託者による神託」:ついで、特定の人物や神官しか、その場所で神の声を「聞く」ことができなくなる。
          
3.「訓練を積んだ神託者による神託」:次は信託者が長期にわたって訓練を積んだり、手の込んだ「誘導」を行ったりしないと、神の声を「聞く」ことができない時代に入る。この段階までは、神託者は「自分自身のまま」で神の声を伝える。
           
4.「神懸かりになった神託者による神託」:遅くとも前五世紀にはこの段階に入る。神託者はそれまで以上に訓練を積み、より手の込んだ導入を行った上で、神懸かりになって狂える口で身をよじりながら神の声を伝える。
            
5.「神懸かりになった神託者の言葉を解釈して伝える神託」:集団内で強制力を持つ共通認識が弱まると、神託者の言葉が聞き取りにくくなり、そのため、神託者を補助する神官が、自らも「誘導」の手順を経た上で神託者の言葉を解釈して伝えざるをえなくなる。
             
6.「不安定な神託」:ついにはそれすら難しくなる。神の声はときどきしか聞かれなくなり、神懸かりになった神託者は奇矯な振る舞いをし、解釈も不可能になる。こうして神託の歴史は幕を閉じる。
         

神々の沈黙―意識の誕生と文明の興亡

神々の沈黙―意識の誕生と文明の興亡

          
このやうな神託権威の衰退傾向にもかかわらず、最後まで辛ふじて其の存在感を示し続けた唯一の例がデルファイだったやうだが、西暦1世紀前後にはデルファイの神託も第6段階に入った。