【ワーナー公式】映画(ブルーレイ,DVD & 4K UHD/デジタル配信)|ブレードランナー

かれこれ25年も前の作品だが、映像の斬新さや物語の哲学的とも言へる深みなど、更には脚本、音楽、撮影などなど、どの点を採り上げてもこれほどのクオリティーを持ち合わせた作品はなかなか無いとぞ思ふ。
しかし、これほど曰く付きの作品もまた無いワケで、ビデオが発売される度に宣伝文句が変化し、「ノーカット・ノートリミング 完全版」*1だの「ディレクターズカット 最終版」だの、その都度様々な物議が醸し出されていったワケだ。世間様の常識的に言へば、「最終版」こそが文字通りの最終版だらうと信じ込まされてきたのだが、今回のバージョンは THE FINAL CUT ださうなげなで、其の解説に曰く、
           

SF映画の金字塔として誉れ高い、巨匠リドリー・スコットの1982年監督作『ブレードランナー』に、最新技術のデジタル処理を加えた“ファイナル・カット”版。当時、衝撃的な近未来映像と評された本作を、美しい映像でよみがえらせ、最新デジタル上映で公開する。主演は『スター・ウォーズ』旧3部作シリーズのハリソン・フォード。先駆的な映像美のみならず、初公開から25年を経た現在も色あせない哲学的要素の濃いドラマにも驚かされる。(シネマトゥデイ
         

とぞ。
そもそもSF分野には興味の無いリドリー・スコットであるからこそ*2為し得た世界であるとも言へやうが、シド・ミートの描いた近未来の情景を、強調された光と闇の対比で模擬(アナログ)的に映像化していった技量は恐るべきものだ。そして、惑星が直列するやうに、ギリシャ人の音楽家であるヴァンゲリスの音が映像に更に深みと厚みをもたらし、ブルーでムーディーな世界を創出して行く・・・
我輩も何十回、此の作品を劇場で観たことか。巴里での一年間だけでも10回以上観てゐるし、今でも時々DVD-THE DIRECTOR'S CUT- を見るほどだから、相当の入れ込み具合でしょ。
今回発売のDVDは5枚組と手強いが、少なくとも劇場では複数回観ることになるだらう。映画公開から四半世紀が経過し、作品で想定された2019年も間近になった。現実世界において、降り止まぬ酸性雨ノートルダム寺院ガーゴイルを溶かし続けるであらうし、東洋的な混沌は今後も、世界の表皮を野火の如く覆ひ尽くして行くのであらう。
そのことは映画の冒頭、漆黒のタイトルバックに響き渡る、遠雷とも巨大な太鼓の音とも、はたまた隕石が地球の大気圏に突入したときの音のやうな、世界を一瞬にして不安に陥れまた同時に統合し時間をも凍結する音の鳴り響きが、全てを象徴してゐたのだ。
        
初めは終はりであり、終はりは常に始まりでもあるのだ。
          

*1:我輩はVHSで所有してゐるが、1991年当時の価格は3800円也!

*2:「エイリアン」でさへ、SFの文法と技法を仮借した母性劇にすぎない。