太空人生

フライト状況

午後2時45分にシャルル・ド・ゴール空港を飛び立ち、北欧を横断してシベリアから中央アジア方面へ。今回は左の窓際にインドネシア女性、右の通路側には大柄なフランス人男性に夾まれて、身動き取れぬ状況に追ひ込まれてしまった。
インドネシア女性はフランス語も堪能で英語もまあまあいける気さくなおばさんだったのだけど、これがしきりにトイレに立つ。イスラム教徒であるのでブルカを被って機体の窓辺に手を添へたりして、時々お祈りなされる。お祈りは何ら問題なく、右側のフランス人男性も離陸時には両手をしっかり合はせて恐らく耶蘇あたりに激しく祈っておったし、我輩は密かに持ち歩いてゐるチベット由来のルンタや数珠などを頭陀袋の下で握ってゐたりするワケで、此の3人だけでも世界三大宗教が凝縮されてゐるワケだ。
           
でも、いくら生理現象とはいへ、窓側の席から頻りに立たれると、その都度我輩とフランス人男性は通路に出なくてはならないワケで、落ち着いて眠って(眠ったふり、または死んだふり)ゐられないので困ったことなのだ。飛行機、それも経済席であるが故の贅沢な悩みである。
それにだ、午後早く飛び立ったのに窓外風景はどんどん日暮れていくではないか。これは何かの間違ひか、天罰に相違ない。午後4時、食事配給。これは昼食か夕食か?
搭乗の際、香港的新聞を手に取ったので、それを認識した太空小姐がしきりに広東語で話しかけてくるので、ちょっと困りましたが、
映画はダイハード4やハリーポッターなど5種類。乗客が神の領域を侵犯してゐることを忘れさせる為に、巧みに様々な娯楽が用意されてはゐるのだらうが、そんなことは我輩には一切通用しないのだ。
             
午後5時5分、おろしあミンスクを過ぎたあたり。
午後8時頃、ブハラ、中央アジアタシケント
午後9時55分、タリム盆地上空
午後10時、香港は午前4時であると表示出る
高度11430m、機外気温マイナス53度、青海省西寧の南を蘭州方面に
午前0時3分、中国大陸重慶の西を南下中、四川盆地縦断
高度10210m
午前1時過ぎ、地平の果てに夜明けの光芒、そして朝食。海鮮粥を選択。
そして現地時間午前7時45分、香港国際空港着。朝の気温は25度、ランタオ島や対岸新界の山々、そして林立する大廈が水蒸気の朝靄に煙ってゐる。確かあのあたりが新界深井だらうから、あの一群の大廈が友人夫妻の住処だらう。
それにしても、わたくしの貴重な6時間はいったい何処に行ってしまったのか?