巴里的週末

いたるところに巨大な自画像が‥

残された資金もろくにないくせに、今天は遊興三昧。
先づは電影観賞。『28週間後』は大まかな評判だけは聞き知ってゐたが、やはり前作とは似て非なる別物にて候。ちなみに電影院はレ・アールのシネコンだったのだが、値段は5.50ユーロ。この値段なら1日2本はいけさうです。それにしても土曜日のレ・アールはなかなかアグレッシブで、人混み掻き分けてFnacなどの店内浮遊するだけでもたいへんです。細かく見ていくと、さすがフランス、マグレブや中近東音源たいへん充実してゐて、欲しいものだらけで激しく試聴してなだめすかしておく。
其の後ぶらぶら歩いてストラスブール・サン・ドゥニ方面へ。此処は昔からアラブ人と黒人の巣窟であったが、その渾沌とした雰囲気は更に激しさを増したやうに感じる。アラブの甘い甘いお菓子をひとつふたつつまみながら、シャトー・ドーあたりから再びサン・ドゥニ門、サン・マルタン門を経て、そのままレピュブリック広場まで。そこからはメトロの9番線でアルマ・マルソーまでひとッとび。シャンゼリゼ劇場窓口で今夜のファジル・サイのピアノリサイタルのチケットを購入。勿論一番安い席、即ち天井桟敷にて候。€5!
チケット入手に安心したついでに、いつもなかなか接近する機会の無いグランパレ方面まで。すると、先日テレビニュースでちょっとした特集をしてゐたギュスタフ・クールベの大展覧会が始まってゐることを発見。既に夕方近い時間帯だったが、此処の開館は夜8時どころか10時までてうことで、時間的には安心して行列に並ぶ。グランパレに入る前に、手荷物チェックと金属探知が行はれるのだが、反社会的思想家でもあったクールベ故のことなのか普通のことなのか、オルセーの時もさうだったが、ホントにいちいちポッケに入れた鍵やら小銭やら、場合によってはベルトや腕時計外したりと面倒くさく煩はしい。(入場料はちょっと高めの€10)
でも、クールベさん、こんなに多作だったのですね。古典的な肖像画と当時も物議を醸し出した女性の下半身の描写、そしていくつかの波濤を描いた風景画などを知るのみだったのだが、大小タッチもさまざまであるはあるは。でも最大の見ものは巨大な「画家とアトリエ」。神秘的で謎に満ちたこの作品、群像のそれぞれが何らかの象徴的意味を持って配置されてゐるのではないかと解釈されたこともあるし、寓意、神話、はたまた無意味とさまざまな解釈がなされ続けてゐるやうで、フランス人たちもしきりにこの作品の前で身振り手振り大きくなにやら議論してゐる状況も有り、その雰囲気込みで大変面白かった。中学生の頃画集で見た「こんにちは、クールベさん」も「波濤」も、そして何よりも「画家とアトリエ」と此処巴里で遭遇できたことは、この上なき喜びにて候。
観賞を終へて外に出ると、すっかり黄昏も闇に近く、サッカーだかラグビーだかの試合でお祭バカ騒ぎの予感を孕んだシャンゼリゼ(既に方々に警察と機動隊が待機中)を遡上し、小腹が空いたのでPAULのサンドイッチ(ゴマがたっぷりついたフランスパンにカマンベールをはさんだもの)€4齧り乍らぶらぶらとシャンゼリゼ劇場方面へ。中規模の馬蹄形型劇場だが、天井桟敷の雰囲気はオペラ座と同様、二人用のボックスだが赤い絨毯張りの小部屋の中に作りつけではない椅子が2基置いてあるだけの質素なもの。壁にあいた窓に凭れ掛かって下を覗き込む感じで、ステージは見えるがピアノの鍵盤だけは手前の座席に隠れてしまって見えない。演奏者も見えないだらうが、しかたないね。
8時5分、演奏開始。ファジル・サイの登場と同時に爆発的な拍手。身を乗り出すと、ちょっと頭が見えた。前半はバッハプログラムで、ブゾーニ編曲版のシャコンヌが第1曲。ちょっと変化の無い演奏だったが、後半の対位法的展開のクリアなタッチは恐ろしいほど。迫力もこれでもか、と言ふほどの音圧で、ホールの底から音が湧き上がってくる。2曲目はプログラムに無い、モーツァルトピアノソナタ。3曲目はバッハに戻り、幻想曲。まう彼の独壇場だが、左手を鍵盤に叩きつけるやうに、そして足踏み、ペダルの過剰な使用、更にはグールドほどではないがかなり大きな唸り声(歌?)などなど、下の方の高い席で演奏風景を見てゐたら、かなり楽しめるだらうなと想像させてくれる。
15分の休憩後、前半戦から持ち越しされたパッサカリアとフーガ。こちらはサイの編曲によるもので、ブゾーニも驚くほどの複雑な交差と和音の付け方。時折、これは3手または連弾で弾いてゐるのではないかしらむと思はせるほどの重厚な音色で、唖然とすることしばしば有り、さすが只者ではないね。
バッハの次が、プロコフィエフソナタだ。かういふ弾き手の為に作曲されたやうな7番だが、その激しいリズム感覚はジャズの領域。感傷的な2楽章も美しかったが、怒涛の3楽章であった。満場の拍手にアンコールは2回。最初はガーシュウィンサマータイム。ジャズ弾きよりジャズらしく、しかし超絶技巧の高速パッセージは古典曲の分野から、自由自在。2曲目は自作の曲。譜面台を自ら外して、ハンマーや弦を手で押さえて、ちょっと民族音楽風な雰囲気を作り出したテーマ曲。しかし後半の展開部は安っぽい映画音楽のやうだったので、昨年タワーレコードで試聴した時に購入はやめたことを覚えてゐる。でも当たり前のことだが、ライブはいいね。
夢から目覚めたやうな感じで、最上階から地階へゆっくりと降りていく。劇場を出ると右手の彼方にエッフェル塔の美し姿。ずるいよね、このロケーションとランドスケープ。そして路上には、今から演奏会後の余韻や食事を楽しまうとする人々の群れが、カフェやレストランに吸ひ込まれて行く・・・・
我輩はお行儀良く、メトロ乗り継ひで帰宅いたしましたとさ。

                        
  
                   
http://www.theatrechampselysees.fr/orchestre/saison-de-l-orchestre-national-de-france/orchestre-national-de-france-ludovic-morlot-helene-guilmette-choeur-de-radio-france/plan
             
ラプソディ・イン・ブルー~サイ・プレイズ・ガーシュウィン ブラック・アース シャコンヌ!~サイ・プレイズ・バッハ