イニシュモアへ

石の島とその道

メリケンカップルは早朝、8時には出て行ってしまった。
昨天より多少雲が多いものの、基本的に晴れ。朝食はキッチンにぶむぶむと寄ってたかってゐるうるさいオランダ人学生たちをより分けて、トースト3枚を確保。昨天は切れてしまってゐたぎうにうも、今朝はまんだあるぞ。濃い目に出した紅茶に、なみなみと牛の乳を注ぐ。安い紅茶なので、当然香りばかりか、味もろくにない。
アラン諸島、イニシュモア島へのフェリーは昔は確かゴールウェイの河口の港から出てゐた記憶があるが、今はバスで45分も行ったところにあるロッサヴィールからの出航になってしまってゐた。港行きのバスはエア・スクエア近くのミーティングポイントから9時半出発なので、20分前にはホステルをチェックアウトして出発。行ってみるとすでに2階建てバスへの乗車が開始されており、自転車持ち込む者や荷物も持たない日帰り組などさまざまな顔ぶれ。アジア人は一人も見られず。
10時20分、港着。旅客専用の大きなフェリー(日本の感覚では大型高速船)が2隻待機中で、それぞれチケットを買ったエージェンシーによって振り分けられる。10時半、出港。多少のうねりはあるものの、ゴールウェイ湾内は比較的穏やかで、30分ほどでイニシュモア島キルロナン村の港に入港。直ちに、港を見下ろす高台にあるホステルにチェックインし、荷物を解きほぐす。1泊20ユーロ。細長い4人部屋で、枕もとの窓からは港が見下ろせる。
それにしても昔の島の面影はどこへやら、村には立派なB&Bいくつかと小奇麗なホテルが建ち、大きなSPARまであるではないか。レンタルバイクは何軒もあるし、アランセーターの売店や立派なインフォメーションまで、港周辺を見る限り、不自由することはなささうだ。
とりあえずホステル近くのレンタルバイク屋で、二日間バイク(マウンテンタイプ)借りる。一日10ユーロで、デポジットが10ユーロ。早速海岸線沿ひに走ってみると、港には昔ながらの観光馬車は健在で、何台か居る。観光ワゴン車も盛大に客引き中だが、見るからにごっつい島の男(所謂アランの男たちだな)が不器用に微笑み乍ら客を呼ぶ光景はちょっと妙だ。
島は全長1.5kmほどもあるだらうか、港から遺跡へは全て上り坂。慣れないマウンテンのギアをしきりに切り替へ、インフォメーションで買った遺跡地図(地形図兼用)片手に、ぎこぎこと丘を目指す。
昨天のバレン高原同様、この島は全島石灰岩で、早い話が石しかない。土壌が全く育たず、昔は浜から海草を引き上げ、腐らせて砂と混ぜ、土のやうなものを作ってゐたところだ。
こんな島にも先史時代の巨石墓もあるし、ケルト以前の巨大な砦遺跡が何箇所もある。そのうち最大規模のものがダン・エンガスだが、ここはこの島の観光の目玉でもあることから、丘のふもとに立派なビジターセンターができ(1999)、考古学的調査もなされ、しっかりと管理されてゐた。でも出土遺物は何処?ダブリンの国立博物館には此処出土の旧石器が1点展示してあったが、この不毛の石灰岩島で、どのやうな状況で発見されたのだらうか?ビジターセンターのおばさんは知らないとのことだし、島には現在考古学者がいないのでよくわからんとのこと。残念だ。
夕方までたっぷり、あちらこちらを走り回って、ちょっと草臥れてホステルに戻る。一応最低限の食料は持ってきたが、SPARでまう少し買ひ足して(インスタントラーメン発見!)、キッチンに出向くと、そこにはハワイ男+スウェーデンカップルと、今天が誕生日だけどお祝ひしたくないイタリア女(32歳)と、数日前まで超長髪(軽く背中まであったてう)に胸まで垂れる仙人ヒゲだったけどなぜか切ってしまったら中世の修道僧のやうな雰囲気になってしまって自分で驚いてゐるカナダ人(28歳)らが居て、ハワイ男が鳥1羽丸ごとオーブンで調理中であり、チリ産のワイなど御馳走になりながらあーだかうだとそれこそ世界中の事象を話題にして出来上がりを待ち、楽しくご相伴に肖る。
同室はスペインはマドリッドからの学生カップルで、これがごくごく簡単な英会話すらできないのだけれども、非常に楽しさうに歩き回ってゐる様子。ちなみに専攻は歴史地理とか。
          
夜半までには月昇り、港を明るく煌々と照らす。
ホステルの1階半分は食堂兼パブでおあるので、にぎやかな声が聞こへてくる。キッチンに居たまう一組の若者たちは、ちょっと離れたホテルのレストランに出かけていったやうだ。聞けば、毎晩其処では音楽演奏があるとのこと。
ホステルのレセプションに居た男はオランダ人で、6ヶ月のアルバイトが明天で終了して帰国するのだてう。まう一人の細い細い女の子(180cmくらい身長ある)もオランダ人で、あと2ヶ月働くとのこと。
             
 
                 
 
                
 
             
アラン島 (大人の本棚)