愛蘭土へ

陰鬱な天気の英仏海峡

6時半起床。7時半にはメトロでブローニュを出発。朝の出勤時間はいつもと違った雰囲気で、2回の乗り換へもさほど難無く出来た。
ガリエニのユーロラインステーションには、すでに多くの旅客が集まってゐて、マグレブはモロッコ行きだのブルガリア方面だのスペインだの、それぞれ色彩の違った客層で面白い。アイルランド行きといっても、結局倫敦乗換へなので、アイルランド人がぎょうさん乗ってゐるわけではない。前の座席はブラジル人のおばさんで、隣はルーマニアの少女、あとはイギリス人数人とスペイン人、日本人らしき若者一人と国籍不明の黒人4人、それに印度パキスタン系が2名といったところ。時間通り9時半出発。
北上するにつれて曇り空重くなって、途中から小雨に。オートルート横目に、途中から「T」の看板。恐らくこれはユーロトンネルのことを示してゐるものと思はれるが、我々のバスはカレー・ドーバーのフェリールートなので、ちょっと外れて港方面へ。12時半、霧雨にけぶるカレー着。
予想外のことだったが、港の一角にイギリスのイミグレーションが存在してゐた。全員下車し、蛇行行列に並ぶ。係官は5人居るが、誰も手強さうだ。殆どの旅客は問題なく通過して行くが、黒人やその他数名がいろいろ手間取ってゐる。我輩の番が来て、見るからに意地悪さうな鼻眼鏡のおばさん係官と対面。
はじめにトランジットであることを告げたにも関らず、初めの質問が「何故イギリスに行くのか?」「だからさ、アイルランドへのトランジットなのですよって」、「それでは何故アイルランドに行くのか?」「(いらんことだ!)博物館や遺跡を見に行くのだ」、「具体的にはどの博物館や遺跡を訪れるのか?」「(いちおー答へるけど、あんたどんだけ知っとるの?そもそもあんたは英国の入国管理でせう?!)トリニティーカレッジの博物館や国立博物館、ニューグレンジ古墳だの中世の僧院跡など・・・」、「何故飛行機で行かないのか?」「(えーかげんにせぃよこのぉ!)わたくしは極度の恐怖症であるし、そもそも飛行機の旅行は面白くないし、フェリーでの移動なんかにも興味があるのだ」、「フランスまで飛行機で来たではないか」「(いらんこと×余計なお世話×20)極東から極西まで、陸路では難しいではないか!」
斯くの如きとりとめもない質問が5分以上続き、さすがにこの寛容な偉人の堪忍袋の緒も切れ掛かって、えーかげんに面倒なんで此処から一人で巴里に戻らうかしらむなどと思ひはじめた頃、やっとこさ6ヶ月有効のビザスタンプが無造作に押されたのであった。
ただただ、タメイキ・・・・
           
午後2時、超級巨大なフェリーは静かに出港。
内部は何層にも分かれてゐて、各階にそれぞれ違ったレストランやバーがあるのだが、皆さん物凄い勢ひで食事しておられる。我輩は持参したパンやじうす、ちょこなどを齧って過ごす。ちなみに船内は既にイギリスポンドの世界なので、そもそも両替から開始せねばならんのであった。
                        
 
                       
1時間も経つと、行く手にドーバーのホワイトクリフ(白い断崖)が見へてくる。憂鬱に曇ったドーバー海峡は昔と同じで、小雨も止むことは無い様子。
上陸後はひたすら倫敦を目指す。オートルートから徐々に狭い道になってくると、猥雑さが増加して行って、バスの姿が増ゑてくる。懐かしい地名がいくつも出現し、アンダーグラウンドの駅をいくつか通過し、ヴァクスホールでテムズを越ゑて、5時45分ヴィクトリア・コーチステーションに到着。次のダブリン行きが6時発のため一瞬焦ったが、時差が1時間あることに気付き、たちまち1時間ほどの猶予が発生。
何度も通ったヴィクトリア駅だが、コーチステーションの方も鉄路駅の方も駅舎が改装されて、ちょっと小奇麗な感じになってゐた。コーチからレールまでがショッピングアーケードになってゐて、そこにユーロラインなどのオフィスが入ってゐるので、ちょっと便利になったのかもしれない。それにしても、ヴィクトリア周辺の路上を往くタクシーの色がどれもおかしなペイントでとっても変なんですが、何かあったのでせうか?
               
 
                     
地図マニアとしては此処でだうしても倫敦地図を入手しておく必要に迫られ、致し方なく手数料の高い駅の両替所で1万円分のT/Cを両替。勿論大半は残るが、北アイルランドでは改めて両替する必要があるのでよいだらう。
肌寒い曇り空、夕方の帰宅ラッシュの倫敦、此処はおお、大倫敦はヴィクトリア! 小さなものを買っても、英語の通じる有難さをやうやう実感できた。(イミグレーションでは寧ろ英語が喋れることを呪ったが・・・)
6時8分発。乗客は18名ほど。見るからに田舎くさいアイルランドのおじさんたちと、観光客なのか仕事なのかよくわからんブルガリア人、そして会話から恐らくポーランド人と思はれる若者2人。フィンチレイRd.NW3あたりを北上し、6時40分オートルートM1に。それにしても車内は寒く、更にエアコンなどが時々入る。なんでかな、中にはTシャツ1枚の人も居るが、昔も何度もコーチの中が異常に寒いことがあったな。暖房入れておくれ!
7時45分、ここはどこか? どこかに止まり、何人か客が乗ってくる。
8時25分、大きな町。ここはどこか?
9時、コヴェントリー、9時半、サービスエリアで30分の休憩。
午前0時25分、タバコ休憩。どっかの路肩。ここはどこか?
1時40分、港。いちおう全員下車してチェックかな、と思ったら、イミグレーションの建物を通過するだけで終了。
やっとこさ、ホリーヘッドであることが判明。
午前2時半、出航。閑散とした船内。寒い。ソファーを見つけて横になるが、寒くてなかなか眠れない。
午前6時過ぎ、夜明け前、ダブリン港着。恐ろしく寒く、襟巻きしても持たない。
予定通り6時半頃、ダブリンの中央バスステーションに到着。ここも開けっ放しで、恐ろしく寒い。店もまだどこも開いていなくて、暖かい珈琲でも飲みたいところ。近くのユースもまだチェックインできないので、しかたなくステーションのベンチに戻る。
寒い。