罰当たりの詳細

出発!

標高2320m相当の機内気圧。4万フィート、12192m上空、神の領域。
機外温度−56度、目的地まで300キロ手前から標高を下げて行く。予定通り台北着。殆どの乗客降りてしまふてうことは、大半が台湾人旅行客だったてうこと。
時間が1時間ずれて、先日まで居た台北に再び居る不思議。空港の乗り換へ待合ひ室からエプロン、免税テンなどぶらぶらと見て歩くと、これまた先日まで食べてゐたやうな麺類だの何だの、日本円もフツーに使へるやうだし、実に奇妙な感覚。
TRANSIT CARD 過境登機證 こんなぺらぺらのカード1枚と、ボーディングカードの端切れが、再び同じ飛行機に自分が乗るための証明書になるのだ。
それにしても飛机、飛行機、世の中にこれほど高価で高度な(物理的にも)修行の出来る乗り物は他にないな。何度乗っても落ちない人は落ちないのだし、初めて乗って落ちる人は落ちるのだし。
兎に角、神の領域を侵してはいけないことは言ふまでもないが、そんな上空で飲んだり食ったりTV見たりと、人間様は実に罰当たりなことを平然としてゐることだ。
         
 
        
台北→香港、807キロメートル
8時10分離陸。客は5分の一以下に減ってしまったので、席を移動。台北市方面でしきりに雷光。おそらくあの下は土砂降りなのだらう。大きく大きく旋回して空港から海岸線沿ひに南下し乍ら、徐々に高度を上げて行く。30分後には9000m、−28度。
台湾の町々の上には、もやっと蜘蛛の巣か繭糸が絡みついたやうに覆ひ被さって、夫々がほの暗く光ってゐる。それらの発光体を繋ぐのは、見るだに心細いオレンジ色の点描の連なりである糸のやうな道である。
        

        
8時55分、Makun島の上空。
9時5分、12000m、4万フィート。これがジェット気流に乗る巡航高度らしい。台湾海峡上空も激しい雷光。稲妻が縦横無尽に走り、恐ろしい程美しい。
CX261便、巴里行きは香港国際空港62番ゲート。
10時3分、雷雲中から香港へ飛来し無事に降臨。超巨大な雷雲を避けながら着陸する方法。先回を繰り返してゐるが、視界は雲中故全く無し。時折翼のすぐ先に、稲妻が何本も何本も走り、その度に機体が紫色に怪しく輝く。其の特殊効果によって恐ろしさが倍増し、映画トワイライトゾーンの1シーンが甦る。
海面なのか陸なのかも殆ど判別できないので、高さを実感できない恐ろしさ。それでゐて、確実に更に高度を下げてゐることが重力によって実感できる恐ろしさ。何か見たことないやうな振幅で翼の先端が振幅する恐ろしさ。
回避して旋回して、そのまた果てにやうやう島影が目視出来、そしてちょっとショックある着陸。
トランジット専用の手荷物チェックに並び、超巨大先進的機場のスケールに呆れ果て、緊張して喉が大いに乾いてゐたが、さりとて今更香港ドルに両替して何かを買う気力もなく、無限に並ぶソファーに身を沈めて恐ろしさを振り返る。
気が付けば回りはフランス人だらけで、既にフランスが始まってゐた。彼らの尊大でけだるい態度を見よ! やたら若者が多く、高校生の団体が中心のやうだが、ソファーの上で抱き合ったりキスしまくったり、彼らには羞恥心は存在しないのだが、えーかげんにせよと言いたいな、少し。
とにかくフランス人だらけだ。助けてくれ!
(-_-;)
          

          
午後11時40分出発。巴里までの予定飛行時間12時間20分、9600キロメートル。
香港から北上し、中国大陸南部、桂林上空から貴陽へ、そのあたりで1万メートルに達し、北西に。窓を閉めるやうに怒られて、いたしかたなくモニターなど見つめる。ほんの数十分うつらうつらしただらうか、隣のフランス人坊やの寝相悪く、ぐいぐいと肩にもたれかかってくるのを防ぎながら、じーっとしてゐた。
        

        
モスクワの北、サンクトペテルスブルグ、コルピノの南。11500m、9時35分、振り返ると地平の果ては夜明けの気配。しかし西へ西へと逃避するので、いつまでたっても朝にはならない恐怖。この飛行機に乗ってゐる限り、永遠に夜明け前なのだ。あと2211キロメートル、3時間弱。本当だらうね?
フィンランド湾南岸を西へ、バルト海方面へ。10時が4時になって、あと2時間てう表示。ホントだらうね? バルト海上空を西南西に、コペンハーゲン方面。機内は標高810m相当の加圧。
11時40分、フライブルグ上空で朝食。魚のなんたらかんたらてう味ごはん。どんどんアップルジュースおかわりしてやったし、立て続けにコーヒーやお茶をたのむので、周囲のフランス人達が好奇の目で見てゐる。どんどん見るがよろしい。
12時、アイントホーヴェン、オランダですね。そしてマーストリヒト、懐かしいね。
         

        
フランスの平原は雲でもなく、さうか、朝霧なのだらう、大地に貼り付いてしまってゐて、視界はまったく無い。でも遠くの方は朝日が輝いて晴れ切ってゐるのだよ。不思議だね。
午前6時45分、濃霧に沈むシャルルドゴール空港に降臨。
            

バガージュが狭く、NYからの便といっしょになってしまって、大混乱。結局1時間以上かかって荷物を得て、外に出ることに成功。パスポートチェックも見る気もなにもない様子で、表紙ちらっと見てそれだけ。せっかく記入した用紙も見向きもせず、取り出して終はり。フランス万歳!
朝の空気はひんやりして気持ちよく、少し肌寒いほど。エトワール行きのバスを探し出して乗りこみ、30分ほどで到着。霧も晴れて美しい青空を背景に、巨大な凱旋門が聳へ立つ。確か20年前もここに到着したのだった。
バカンス中、しかも日曜朝の巴里市内は閑散としてゐて、エトワール広場も歩いて渡れるほど。メトロ乗り継ぎ、ブローニュを目指す。
(-_-)