VOLTA 的

蕩けるやうな・・・

ビョークのことを本格的に知るきっかけになったのが、かの『ダンサー・イン・ザ・ダーク』であったことは皮肉だった。
彼女の持つ独特な雰囲気はカリスマ性を孕み、同時に神秘的で、嫌悪するにも十分な情緒に満ちてゐる。蕩けるやうな、それでゐて呟き囁くやうな歌ひ振りは如何にも巫女体質の粘性を感じさせるが、いびつな楽曲の主旋律もコトバの壁さへ超越出来れば快感に変化して行く。全ては我々の耳から導入される全神経の柔軟性を、試されてゐるのだらう。
                
" VOLTA " の1曲目、EARTH INTRUDERS は全編原始的なリズムが支配する楽曲だが、歌詞は幼稚な表現乍らSF的な状況を説明しやうとしてゐるし、続く WANDERLUST では汽笛を模したブラスの音群が錯乱した多重旋律に満ちた気怠ひ空間を引き出してくる。The Dull Flame Of Desire はやはり低音のブラス群を背景にしたデュエット曲だが、英訳されたこの歌詞は、アンドレイ・タルコフスキーの『ストーカー』(1979) に登場するロシアの詩人フョードル・チュッチェフ(1803~1873) の詩の引用であるてう。次第に高揚して行き、最後はリズムセクションのみに昇華して Innocence に引き継がれるのだが、奇妙なテクノチックなリズムと効果音、それと彼女の歌だけで構成されたこの曲自体が、別の曲のダブバージョンのやうだ。続く I See Who You Are は一転し東洋的な音色(恐らく中国琵琶)の音で開始されるが、コレがもし彼女の言ふやうに娘の為に書いた子守唄であるとすれば、娘は相当の強者であるに違ひない。Vertebrae By Vertebrae は何故か個人的にはTVドラマ『逃亡者』を連想させる曲。Pneumonia は懺悔と回顧の聖歌。Hope は妊婦の自爆テロリストについての歌で、アフリカの弦楽器コラの音が印象的な、絶望的なバラード。Declare Independence は彼女の友人と同時にグリーンランドフェロー諸島の人々に捧げられた扇情的な革命歌。力強く、「自立せよ!」と叫びが終始する。一転して My Juvenile は無言劇を見るやうな、さもなければシェークスピアの作品の一場面を見るやうな幻視を催すエピローグ。
そして日はまた昇り、黄昏を待つ・・・・
(−_−)
             
             
 

Volta

Volta