多言語の功罪

メタリックキョロ語?

招待所の所属する地方自治体は、近年の意味無き流れに便乗して合併を果たした結果に発生した小都市だが、その指定ごみ袋の表面には5カ国語で表記されてゐる。例へば可燃ごみの場合、Burnable Garbage、Basura inciberable、Lixo incineravel、可燃性拉埃(拉の字は手偏ではなく土偏)と、ハングルの5言語。葡萄牙語と西班牙語の併記は、中南米由来の日系人が多く在住してゐるからだらうが、中国語と韓国語の併記は大東亜系の住人も多からうとの配慮だ。英語が冒頭で威張ってゐることは気に入らないが、恐らくこの5カ国語表記で、住民の97%近くの理解はカバーしてゐるのだらうね。
現在の工作現場周辺は比較的規模の小さな町工場の集中地帯で、主要幹線道路の交差する四方ともに様々な業種の工場が建ち並んでゐるが、毎天夕方遅くになると狭い歩道を一斉に、10台以上の自転車が高速で通過して行く。よく見てゐると乗り手の多くは日本人らしくない雰囲気で、風貌などから中国人小姐であることはほぼ間違ひ無く、数人ゐる男性も中国人と印尼人のやうだ。彼らも市内のアパートなどで集団生活をしてゐるのだらうから、ゴミ袋の中国語表記は必要だらうね。ところで、自動車解体工場やゴミ回収業者でよく見かけるパキスタン人やイラン人など、中近東系の人々はアルファベットと漢字の狭間でさぞかし苦労してゐるのだらう。
我輩も、嘗て何度も言語の狭間で苦しんだものだ。巴里やベルリンで中国映画を観る時の状況は、そこそこわかる耳から入ってくる中国語と、目で追ってゐるだけで精一杯の現地語字幕の間隙の闇は深く、たった1本の映画鑑賞とは思はれぬほどの疲労をもたらすものであった。また、北京発モスクワ行きのシベリア鉄道では、蒙古入国時とソ連入国時にそれぞれ入境カードの記入を強要されるのだが、キリル文字表記のカード内容を、蒙古国境では中国人服務員が「er」化著しい北京語で、ソ連国境では隣のコンパートメントのおろしゃ人によるドイツ語解説で、どちらもキリル式で記入せねばならないてう理不尽さ。漢字の偉大さを誇示すべく、漢字表記も認めよと訴へてみたものの無駄な抵抗であった。
とにかく、中途半端な多言語で助かったことも多いが、危機に陥ったこともしばしば。話せるなら日常会話以上の領域を、話せないし読めないなら徹底的にゼロに近い方が宜しい。
(-_-)どやさ?

13カ国いうたらあかんディクショナリィ―言ってはいけないことばの本 (講談社文庫)