検証徒然

万灯幻惑

知人の親戚宅に秘蔵された、愛新覚羅溥傑氏の筆による掛け軸の写真を拝見した。
曰く、
             
三尺剣光氷在手 一張弓勢月当頭   庚辰仲冬 溥傑
                
凛とした筆致で、筆速迅速にして力強く清楚、人柄の如実に現れた名筆である。薄桃色に淡雪を散らしたやうな単仙への揮毫は寡聞にして聞かず、紙自体満洲国時代のものかはたまた清朝末期のものかは不明。
書かれた漢詩について調べてみると、『和漢朗詠集』の「将軍」の題に採用された、「陸将軍贈李都使」が原典と思はれたが、そちらは第二行が「一張弓勢月当心」となっており、一字違ひである。この相違が、溥傑氏の判断に因るものか、大陸側の原典に諸説有るが故のことなのかは不明。此処に言ふ「庚辰」は1880年、即ち昭和15年のこと。奉天こと瀋陽で書かれたものとのこと。満洲国自体は1932年から1945年に存在した幻想国家であるので、辻褄は合ふ。前年はノモンハン事件、翌年は大東亜戦争開戦、即ち真珠湾攻撃の年だ。
三尺剣と聞けば、有名な祖元禅師の一偈を思ひ出す。
乾坤無地卓孤筑 喜得人空法亦空 
珍重太元三尺剣 電光影裏斬春風
更には、「斬風三尺剣」と言へば、片岡千恵蔵主演の映画の題名だ。1934年の作品だから、矢張り満洲国の存在してゐた時代の作品だ。満映と千恵蔵は無関係だと思ふが、溥儀も溥傑も時代劇を観てゐたのだらうか?
(-_-)???

満洲国の文化―中国東北のひとつの時代 愛新覚羅溥儀 最後の人生
溥傑自伝―「満州国」皇弟を生きて