薫り高し

月桂樹の花

昨夜の芸術劇場は贅沢な内容。(お疲れ気味の吉村作治のコメントは内容の無いものだったけどね)
BBCフィルハーモニックは名前が紛らはしいが、ロンドン的ではなくてマンチェスター的楽団。指揮のジャナンドレア・ノセダはイタリア人で、かのゲルギエフの弟子てうこと。本来のプログラムの後半であるホルストの『惑星』全曲披露であったが、跳ねるやうな、キレの鋭く動作の極めて大きな指揮振りで、誠に痛快なる演奏。超有名な「木星」が単体としても如何に秀逸なる作品かてうことを改めて思ひ知らされると同時に、冒頭「火星」のSTARWARSも真っ青な弾け具合や、デュカスの影響がはっきりと聴き取れる「天王星」、ステージに現れない女性コーラスとの神秘的な対話などなど、作品に対する再評価まで促されてしまう始末。ノセダの名前を初めて聞いたのは2001年宇宙でのこと。マーラー交響曲第8番「千人の交響曲」の指揮者として、雑誌か何かのコンサート評で見かけたのが最初。文中に誤植があって、「千人」が「4人」になってゐたことで印象的だったこともあるし、ノセダてう聞き慣れない名前だったので、例へば「能勢田」さんみたく日系人なのかなと思ったてうこともある。とにかく目を覚ませと呼ぶ声が聞こえるが如き演奏だった。
2本立て後半は鄭明勲指揮による東京フィル、マーラー交響曲第4番。但しお目当ては第4楽章にソプラノ独唱で登場する森麻季嬢。爽やかなコロラテューラがマーラーの描く天国を歌う、まさに天上の音楽。恐らく一般的なマーラーのイメージでは、彼女のやうな「爽快涼風」的な声だと重みが無いとか色が合はないと云はれかねないだらうが、さうではない。第4楽章の歌詞は「子供の不思議な角笛」から取られたものてう意味では第2・第3交響曲などとも共通することだが、隠喩も皮肉も無い純粋素朴なもの。 "Sehr behaglich" 「きわめてなごやかに」の指示と相俟って、森麻季嬢の力で天上の音楽に昇華したのだ。第4楽章はト長調ながら、曲の最後だけはなぜかホ長調。ハープの低音とコントラバスだけが静かに遠ざかるやうに天上に消え入り、静寂のうちに終はる。鄭氏の指揮棒も胸の前で静かに左手に包まれて、眠るやうに演奏終了。会場も5秒以上の静寂に包まれ、その後湧き上がる拍手。観客もこの演奏の何たるかを良く理解しており、印象的な演奏家だった。
(-_-)心に響きました

マーラー:交響曲第4番 亡き子をしのぶ歌
指揮者は違ひますが・・・