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メタリック・ワーグナー

連夜、NHK-FMで深夜、年末恒例のバイロイト音楽祭の放送を聴いてゐる。ワグネリアンではないが、ワーグナーは好きだから、連夜延々と流される音楽劇の音はBGMにしては余りにも存在感が過ぎて、さりとて聴き流すには余りにも惜しい内容だ。
今夜はワルキューレだけど、今のところ先日の「彷徨へる阿蘭陀人」の出来が大変宜しかったな、などとエラさふに思ふのであった。普段聴くのはいろいろなオペラや楽劇の序曲や前奏曲などが殆どであり、全曲を通して聴くことなど暮れのこの時期しか無いワケだ。
昨年は図らずも「ローエングリン」の放送中、エルザ・大聖堂への入場のシーンで感涙してしまったワケだが、それにしてもこの大作曲家の編み出した音の束は重厚長大で、宇宙的世界を創出する力を持ってゐるのだ。ルートヴィッヒ王が現実逃避先としてワーグナー宇宙を選択したのも、良く理解できる。我輩の場合はSF(電影・小説等)に並ぶ偉大な逃避先がオペラであるが、堪能する為には相応の経済力が必要なことが難点だ。
思へば巴里のオペラ座天井桟敷で聴いたマイスタージンガーは、お喋りで五月蠅い隣席の仏蘭西男と共に強烈な印象で心中に沈殿してゐるが、煌びやかな宝石を身につけた金持ちを後目に、黄金の柱飾りとシャガールの天井画を至近の距離で鑑賞できるてう特権が付与されてゐるのだった。今はガルニエのオペラ座はバレエ専用になってしまひ、オペラはバスティーユに行ってしまったやうだが、ガラのあの煌びやかで重厚かつ大時代的な雰囲気が味わへないのは残念だな。
冷たい雨が去り、木枯らし荒れ狂ふ夜、ワルキューレの音楽はそんな時にこそふさわしい。
ワーグナー:歌劇《ローエングリン》(抜粋)
ワーグナー : 歌劇「ローエングリン」 (全曲)