屋根裏の探索者

豪快な組み構造

人類発生の謎を探るべく、天井裏に上がる。6年ぶりのことだから、いったいどのやうになってゐるのかは予想の範疇ではないが、月面に於けるモノリスの存在や火星の人面岩の例を引くまでもなく、この種の主題を研究することはひとゑに覇拿里人の運命的な使命であるとさへ言はれてゐるのである。
今棲んでゐる母屋は奇妙な造りで、玄関の上がりの間が8畳、つぎに12畳、奥が12畳の三間続き。三間の両側に廊下を配する構造であるが、現在はその中の間に陣取っており、元活動の中心であった奥の間には床の間や仏壇、神棚などがある。天井は上がりの間が一番低く手が届くほど、中の間が40cmほど上がって2.5mほど、奥の間が3mくらいてう階段状の構造。即ち上がりの間の天井裏がいちばん高くなってゐるわけだが、そのわけは中の間と相俟って養蚕に使われてゐたからなのだ。奥の間の天井裏には入れない構造になってゐるが、手前の二間の天井裏空間でも十分、お蚕さんを養うには足りてゐたのだらう。
そんな養蚕関連はさておき、今回の最大の目的は人類発生の謎を探ることだが、そのこともさておき、先の地震で生じたゆるみやずれに起因する雨漏り調査が優先されるのも、当然と言へば当然であらう。蜘蛛の巣をかき分け、堆積した大量の埃と砂とわけのわからんものを後目に、電灯をかざしながら中の間の上を目指した。前回の探査で発見された江戸時代の水屋や、なぜか満州国と軍事訓練に関係した資料はすでに回収してあるのだが、大量の絵はがきがまだ隠されてゐた。それと、どこからどのやうにして持ち上げたのか全く不明な巨大な長持ちが横たわってゐるのだが、未だに謎である。恐らくは大ピラミッドの王の間の花崗岩製の石棺同様、この家の構築と同時に設置されたものが残ってゐるのか、はたまた指物職人が天井裏に登って秘密裏に造り上げたものなのか、よくわからない。中を覗くのが恐ろしかったが、中身はカラであった。大きさは敷き布団を畳まずに入れることの出来るくらいの幅なので、中で眠ることもできるし、木棺として使用することもできるてうものだ。(-_-)
その他にも、分解されたムシロ機や桐の箪笥、木桶やあけることさへ憚るやうな謎の紙箱、満州国からの謎の表彰状や大正天皇肖像画、前回恐らく我輩が探査したときに忘れていったものと思はれる軍手と草履などなど、時代にも陽光にも人心にも忘れられたものどもが埃に沈んで眠ってゐるばかりであった。不思議なことに中の間に座ってゐると聞こゑて来る雨漏りの音(10秒に1滴くらい)の元凶箇所の痕跡すら見つからなかったことや、前回探査するきっかけとなった怪奇現象(天井板の節穴から部屋にフナムシが落ちてきたのだ!)の原因すら解明できなかったことである。ただしへっぽこネズミとアオダイショウの暗躍した痕跡は確認することができたが・・・
とにかく、人類発生の謎は、フナムシと雨漏り発生の謎が解明されてはじめて、解き明かされる問題であるてうことが認識されたのである。