繋がり

ここどこ?

休みてうわけではないが、屋外工作の無い日なので、終日在宅。明け方の通り雨もイヤな蒸し暑さを煽るだけで、吹く風は湿っぽくて肌にまとわりつく。
机の前でさまざまな作業を進める傍ら、目に付いたCDを片っ端からかける。今日の白眉は、シプリアン・カツァリスの演奏するシューベルトピアノソナタ第21番変ロ長調 D.960 &ベートーベンのピアノソナタ第12番変イ長調 op.26 の2曲。シューベルトの21番は、彼の死の年である1828年9月に書かれた「遺作」と呼ばれる3大ソナタの最後の作品。それはベートーベンの死後わずか1年足らずの時であり、57歳で此の世を去った巨匠のあとを追うやうに、シューベルトも短い生涯を閉じたのだ。享年31歳、晩年と呼ぶには違和感を覚える年齢であるが、死の原因は不治の病であった梅毒てう説が有力だ。伝説的な寓話として、ベートーベンの葬儀に参列したシューベルトが、36人ゐた松明持ちの一員であっただの、その数日前に二人は面会していたとか、両者とも激しく強い死の観念に囚われていたことが、いまだにもっともらしく語られてゐる。事実をさておけば、それは美しく神秘的な寓話ではあるな。
ベートーベンの12番は1800年の作品なので、交響曲で言へば第1番と同じ頃の作品てうことになる。年齢は29歳前後だが、当時の寿命から云へば既に青年から壮年期にさしかかった頃と理解すべきかもしれない。第3楽章には「或る英雄の死を悼む葬送行進曲」なる表題が付けられており、比較的有名だ。交響曲第3番「英雄」が1804年のナポレオン・ボナパルト
皇帝即位にまつわるエピソードを持ってゐることはよく知られていることだが、「或る英雄」とはナポレオンでないことは確かだらう。誰のこと?
カツァリスのタッチは情感豊かで、感傷に流されることなく抑揚を付けてゐる。1985年の録音だから、34歳。青年?中年? この流れで「トロイメライ」方面へ流れて行きませう。