空と雲と英国式と

高速去来

雲、飛ぶ、白い雲、飛び行く、青い空に、白い雲、飛び去る。
何か空気中の水分が変則的台風によって持ち去られたやうで、爽やかでさらりとした感触の空気になった。風もまだあるし、日差しも戻って肌を強く差すが、外に出て天を仰ぐと無数に去来する雲の群に目を奪われて、ついつい海岸に誘い出される。雲と空と海の関係やその接点が見てみたかったのだ。
さておき、英国式第三弾を意識したわけでは決して無いが、流れの行く先向かふ先であることは否定できない。やうやう「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」をやっとこさ観てきたのであって、これまた英国人による英国式寓話世界に浸ってしまったのであった。ダニエル・ラドクリフ君はかなり大人びてきて、徐々にカッコ良くなりつつある。成長する子役をそのまま利用する作品製作方法は「ロード・オブ・ザ・リング」とも共通しているが、取り扱い方という意味では「北の国から」の方が徹底的だらうか(見たことないのでヨクワカリマセンガ…)。とにかく今回は一癖も二癖もあるゲイリー・オールドマンがどのやうに登場するのか興味津々だったけど、魔法が日常の設定ではむしろ変哲のないおじさんに見えてしまうから皮肉なものだ。こけおどしや変態的演技どころか、子ども相手にとっても丁寧かつ誠実に囚人シリウス・ブラックを演じていてかわいらしい。かわいらしいのはハーマイオニーだが、とってもとってもお茶目だったのがエマ・トンプソンだ。所謂牛乳瓶底メガネの見るも奇怪でメッシーないでたちで、外連見いっぱいの演技。多分余裕で楽しんでゐるのだらうなー、彼女の場合は。更にはディビッド・シューリスが愉快だが謎を秘めた先生役を好演。いつものひねくれたりいじけたりするやうな人格とは違って、のびのびと演じているように見えた。これらはみんな監督が変わったせいなのかもしれない。演出も展開も、前二作とはうってかわって明瞭快活、神秘性や重厚感は寧ろ意識的に排除された感じだけれど、原作にはあくまでも忠実。観客という立場では、この方がうんと馴染みやすいのかもしれない。おかげで音楽担当のジョン・ウイリアムズも、ハリーのテーマ以外にはオムニバスやコラージュのやうな音の付け方に変化していて、特にエンドタイトルの音楽は凝った作りの画面とともに秀逸だった。おなかいっぱい、ごちそうさまでした。フィッシュ&チップスの大盛りを食べた感じ・・・わかる?