B.C.J.の新世界見聞録

舊暦十月十一日の Mozart@サラマンカホール(岐阜)

 

 

 

 

 
サラマンカホール見聞録その2。本日はバッハ・コレギウム・ジャパンによるオールモーツアルトプログラム。
白髪の鈴木雅明氏とまだ黒髪ボリューミーな優人氏、颯爽とステージに出現するやいなや、2Fのオルガンバルコンに登壇し、いきなりの親子共演開始。前代未聞のパイプオルガンの聯弾! 「音樂時計のためのファンタジア K.608」 は4手のオルガンで聴く為かところどころにバッハを聯想させる對位法的展開部分有り、文字通り二人の呼吸が一體化し、寸分狂はず全く隙の無い演奏に壓倒される。
そしていつものトークタイム。樂曲の解説や此のパイプオルガン建造家である辻宏氏*1の思ひ出話を織り交ぜ乍ら、息子が親父に話を振り其の廣げた話を再び息子が纏めてみたりと、所謂スマート&巧みな展開。
https://salamanca.gifu-fureai.jp/information/organ.html
續く第二曲も「音樂時計のためのアダージョアレグロ K.594」で、前の曲とは違った音色、即ち、前方に突出したトランペットパイプを駆使しての演奏。ふーむ、これら二曲は最晩年の作品のやうだが、一般的なモーツアルトのイメージから随分外れた領域にあるのだな。對位法的展開がかなり複雑で、単純明快さはあるが陰翳が深い。鈴木氏曰く、原曲は機械用なので2手での完全演奏は不可能であり、4手にしてはじめて全ての音を再現出来るとのこと。大變興味深い作品だ。
次はExsultate, Jubilate 「エクスルターテ・ユビラーテ K.165 」(踊れ、喜べ、幸いな魂よ) ソプラノは英國人のキャロリン・サンプソンで、「完璧なコロラットゥーラ技術と豊かに伸びる輝かしい声」と紹介に有る通り。豊かな輝き、しかも決して派手さや奇を衒うことなく、技術に溺れること無く、八分目の實力發揮で余裕の参戦と言った感じ。勿論第三部終章の”アレルヤ”は単獨でも演奏される名曲なので聴衆の大半も知ってゐる曲なのだらう。オーケストラの伴奏もキレが良く心地良く、聴衆の脳裏と呼應して會場の雰囲氣までもが明るくなったやうな氣がするから不思議だ。結局此の”アレルヤ”がアンコール曲として再演されたのも嬉しかった。
さて、問題は「交響曲第40番 K.550」解説に曰く、注文の無い音樂を自發的に書く習慣の無かったモーツアルトが、誰にも依頼された痕跡の無い此の曲を何故書いたのか。また、生前に演奏された形跡が殆ど見られないてう謎が有ること。にも関はらず、原曲のオーボエのパートを何故クラリネットに書き換へるやうな改訂が加へられたのかなど。兎に角著名なる名曲故に謎など無いかの如き印象があったが、確かに言はれてみれば謎も多く多様な要素を内包した曲であった。
とりわけ終楽章の展開部に於ける轉調の激しさは異常であるし、第三樂章の短調メヌエットも非対称で深刻過ぎて異端だし、第二樂章も不安定な旋律に終始する。今回は古樂器であるし、徹底したピリオド奏法でもあるし、必要最小限の人数での演奏てうこともあって、これらの異端的な要素が手に取るやうによくわかった。
とまれ、バッハの時でさへモーション大きい鈴木氏の指揮振りだが、ことモーツアルトともなると各パートの出入りを激しく指示するや否や、音量の大小と旋律の表情を指示し續けるので、御本人も言ってゐたが汗だくになっておられましたことが微笑ましい限り。それにしても此のサラマンカホールとバッハ・コレギウム・ジャパンとの相性の良さはかなりのものであり、今後も積極的に此の上質なホールが活用されることを願ふものである。
ところで今日のコンサートには嬉しいお土産が付いてゐて、曰く「モーツアルトを聴いて育った・・・クラシック富有柿」*2とぞ。柿畑にスピーカーを設置してモーツアルトの曲を流してゐるのかしらむ。まさか柿畑で生演奏しとるワケではあるまいて。*3
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
 
 

モーツァルト : レクイエム (Mozart : Requiem / Bach Collegium Japan | Masaaki Suzuki) [SACD Hybrid] [輸入盤・日本語解説・歌詞対訳付]

モーツァルト : レクイエム (Mozart : Requiem / Bach Collegium Japan | Masaaki Suzuki) [SACD Hybrid] [輸入盤・日本語解説・歌詞対訳付]

 
追記:今夜のクラシック音樂館、<NHK音楽祭2015 アンドレス・オロスコ・エストラーダ指揮 hr交響楽団
1.歌劇「オイリアンテ」序曲(ウェーバー
2.バイオリン協奏曲 二長調 作品35(チャイコフスキー)、バイオリン:五嶋 龍
3.交響曲 第1番 二長調 「巨人」(マーラー
兎に角五嶋 龍の演奏にがっかり。上手いのか下手なのかよーわからんてうことは、下手なのだらう。100歩譲って、今回の指揮者またはオーケストラとよほど相性が悪かったのだらうと無理矢理矛先を納めることも出来なくも無いが、どちらにせよ聴くに値しない演奏だった。(-_-;)
 
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【おまけ】

*1:何故「辻」てう苗字の人の名には「ヒロシ」が多いのか謎だ。我輩の周囲だけでも3名居られる。

*2:「マル糸」印てうことは本巣市糸貫町の産品だらう。

*3:柿畑と聞くとヲコゼムシを聯想して仕舞ふのが苦々しいが、柿の木の下で何度か刺されたトラウマによるものだから致し方あるまい。