Gidon Kremer & Kremerata Baltica

舊暦九月十二日のラトビア

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

↑※演奏會後の舞臺の様子。人間の音樂活動の痕跡てう意味では或る種の遺跡であるとも言へやう。
 
中京テレビ事業 CTE.jp│第33回名古屋クラシックフェスティバル ギドン・クレーメル&クレメラータ・バルティカ
 
クレメラータ・バルティカの音に触れることが出来た。
勿論「ギドン・クレーメル率ゐる」てう一節を冠さなければならないが、それはそれは洗練された弦樂合奏の豊饒な世界が、コンサートホールいっぱいに展開したのであった。
ギドン・クレーメルの生演奏に接するのは1988年のベルリン以来だから、今となっては比較する意味も無い。ピアソラ系のコンサートが東京であると聞いて、チケットまで手配してゐたが情けない都合で行けなかったのが今更のやうに悔やまれるが、そのあたりはNHKの番組や何枚かのCDで補填しておいた。
さて、今回の聴き位置は舞臺右手二階前列で、正面に換算すれば三列目の客席あたり。さすがにこちらに背を向けたチェロ奏者の音だけは前面に押し出されては来なかったものの、ギドン・クレーメルの弾くアマーティの柔らかながら芯のとおった素晴らしい音は十分捕まえることが出来た。
最初は二十数人居るクレメラータ・バルティカのメンバーだけで奏でられる Alexandr Raskatov : After “The Seasons” by Pyotr I. Tchaikovsky For solo violin, strings. percussion
聴き慣れたチャイコフスキーの旋律がちょこっとづつ變形させられてゐて、1月(炉端にて)5月(白夜)12月(クリスマス)が生き生きと樂しげに演奏される。これは良いアイデアで、樂團メンバーも緊張感が除去されるだらうし、観客の耳にも優しい。
そしてちょっと團員の配置が變はり、愈々ギドン・クレーメルを交へての大曲、Philip Glass : Violin Concerto No,2 “American Four Seasons” (2009)の開始。曲はプロローグと4つの樂章から為り、樂章間には無伴奏ヴァイオリンによる間奏曲である “song” が入る。面白いのは、此の song 自體も徐々に進化して行くことで、最初は無限にも續くそれこそミニマルなアルペジオの連なりだったのが次第に其の奥から旋律が出現し、song no.3 になるとはて曲の一部のカデンツァなのかしらと一瞬區別も惑はされるほど。兎に角、フィリップ・グラス独特の重厚なミニマル音形の連なり、と言ふべきか寧ろ無限に積み重ねられて行く音の堆積または、合はせ鏡に映し出された無限の廣がりは、しばしば激しい既視感を催すものであり、例へばそれは映畫 “The Hours” (『めぐりあう時間たち』2002年)の背景に流れてゐた音形であったり、映畫 “Cassandra's Dream”(『ウディ・アレンの夢と犯罪』 2007年)の最後の方の曲に似てゐるなとか、そこはミニマルな音樂の宿命的な部分はあるものの、全體としては叙情性豊かな弦樂合奏詩のやうな印象を受けた。
此処で20分の休憩時間、座席でぢっとしてゐたにも拘はらず、図らずも友人Tに發見されて仕舞ったことは誠に想定外だった(-_-;) 今後は十分用心せねばなるまい。
後半はまた別世界の音樂世界。梅林茂:ヴァイオリンと弦樂オーケストラのための「日本の四季」(委嘱作品:本年9月29日ドイツ・クロンベルク・アカデミー・フェスティヴァルにて世界初演とのこと)は、それはそれは優しく懐かしく、それでゐて妙に和風の旋律を多用するでもなく、安らぎを覺へる平和な曲だった。
そして最後は、Astor Piazzolla : Las Estaciones (ブエノスアイレスの四季) 待ってゐましたとばかり、若い團員たちの演奏が炸裂し、クレーメルも片足が爪先立ちになる独特のノリのポーズで激しく弾く。弦樂合奏の厚みやダイナミックレンジの廣さはかなりのもので、中でもチェロ奏者とクレーメルが掛け合ふ場面は凄まじい迫力で、往年のクレーメルのねちっこさと繊細さを化合させ昇華させたやうな素晴らしい演奏だった。原曲は勿論ピアソラ五重奏團の為に書かれたものだが、此のレオニード・デシャトニコフが独奏ヴァイオリンと弦樂合奏の為の編曲版では随所にヴィヴァルディの四季からのフレーズが引用され、遊び心も十分加味されてゐるので樂しい。
アンコールは二曲、オスカー・ストロークの「ダーク・アイズ」とワインベルクの「ボニファッツィ・ホリディズ」と言ふ愛嬌のある曲だった。ふーむ、かなり満足だが、別途愛知縣藝術劇場コンサートホール2Fの手摺りについてはだうしても許し難い状況なので、以下に別途クレームを書いておくことにする。
 

 

 

 
愛知縣藝術劇場の關係者殿、コンサートホール上層階の手摺り、何とかなりませんか。
いったい設計者は實際に前列の座席に座ってステージを眺めたことはあるのでせうか?
中途半端な高さに設置された手摺り(真鍮?)が視線中央を遮り、本當に鬱陶しい。
轉落防止にどれほど役立ってゐるのかはわかりませんが、肝心のステージへの視界を犠牲にしてまで設置する意味があるのかだうか、検討されたことはあるのでせうか? 隣のユニットのお爺さまも「最前列だとこの手摺りが邪魔で見えんから、二列目の方がいいかもしれんね」とおっしゃっておられました。
是非撤去するか、現状の半分以下の高さに造り直して欲しいと切に思ひます。1992年の開館以来きっとかなりのクレームが寄せられてゐることと思ひますが、何ら對策が取られないまま現在に至る状況は、劇場運営者の怠慢に他なりませんよ。
 

 
 
 

ニュー・シーズンズ

ニュー・シーズンズ

  • アーティスト: クレーメル(ギドン),ヴィリニュス・リエパイテス合唱声楽学校少女合唱団,カンチェリ,クレメラータ・バルティカ,ディルヴァナウスカイテ(ギードゥレ),ビドバ(ジェラルダス),プシュカレフ(アンドレイ),ピーターソン(マダラ),リプナイタイト(ルタ),プスカシュ(ダイニュス),ジュゲイト(マダラ)
  • 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック
  • 発売日: 2015/07/15
  • メディア: CD
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【おまけ】

お、前の車がトランスフォーマータイプの新型車!と思ひきや、衝突された事故車だった件
(-_-;)