バロックの森に降り注ぐ満月の光

舊暦八月十五夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 
本日は東海バロックプロジェクト第3回公演 輝かしい古樂の祭典3 〜J.S.バッハの神髄〜 @長久手市文化の家 森のホールへ。
噂に名高き此のホール、畫像でしか見たことがなかったのだが、實際に身を置いてみると大變雰囲氣が宜しい。
ステージを取り囲む半圓形劇場構造で、ホールの名前通り木をふんだんに使った落ち着いた空間に、先づ魅了された。
音樂會専用ではないことは、座席部分のユニット毎に隙間のあることや、舞台袖の仕切り板の様子から推察することが出来た。即ち、いろいろな部分が可動式になってゐて用途に應じてトランスフォーム=變形するのだらう。
今回の曲目は以下の如し。
J.S.バッハ:モテット第3番 BWV 227《イエスよ、我が喜び》
J.S.バッハブランデンブルク協奏曲第3番 ト長調 BWV 1048
J.S.バッハ:フルートとヴァイオリンとチェンバロのための協奏曲 イ短調 BWV 1044
J.S.バッハ:モテット第1番 BWV 225《主は向かいて新しき歌を歌え》
バッハのモテットは昔パリ滞在中に或る教會堂でのコンサートで何曲か聴いてゐるはずなのだが、勿論記憶は無い。深き森の如き大バッハの作品群だが、先年やっとこさカンタータの森の入り口の小径に辿り着いたばかりの我輩にとってみれば、耶蘇の精華であるモテットなどはも少し森の奥先にあるものと思ってゐたから、意識的に鑑賞するのは今回が初めてに等しい。
結論から先に言へば、それはそれは素晴らしい音樂との邂逅であった。流石に「バッハの神髄」に至るにはまだ幾百里の道のりがあると思ふが、アンサンブルの良さに加へ、合唱の美しさ。全員が独立したソリストでなければ演奏不可能な最低人数の編成。勿論、音の強弱は指揮者兼チェンバロ演奏者の大塚直哉氏の指示によるものだらうが、先日聴いたバッハ・コレギウム・ジャパンに於ける鈴木氏の役割とはまた違った種類の紐帯が形成されてゐるやうで、ともすれば森のホールよりも小さな空間であった方がより演奏を樂しめたのではないかとも感じた。
「3」に支配されたブランデンブルク協奏曲第3番の旋回する秘密や、フラウト・トラヴェルソのまろやかで暖かな響き、そして何よりモテット第1番の奇跡的な二律呼應の妙。左右に分けられた各4名の合唱が右から左から交わし競ひ合ふアンサンブルの美しさは、今回の白眉であり作品については大きな發見でもあった。欲を言へば、もう少し通奏低音の音量が欲しかったかもしれない。
アンコールは期待してゐなかったが、最後には全員がステージ上に出現し、カンタータBWV147の終曲コラールを感動的に演奏。とても暖かいものに大きく包み込まれるような、たいへん良質なコンサートであった。
今回の収穫はいくつかあって、個人的にはバッハの未開発領域を切り拓くことが出来たこと。東海地方に所縁のある素晴らしいバロック系演奏者の演奏を至近で聴くことが出来たこと。大塚氏の技量はまだそのほんの一端にしか触れることができなかったが、分かり易い解説はNHK-FM「古樂の樂しみ」で確認済みだ。コンサートマスターの桐山氏はグループの中でも決して目立つ存在ではなかったが、其の技量は相当なものだ。別の樂曲で聴いてみたいと思った。合唱部では加藤・本田両氏のソプラノが際立って素晴らしく、モテット第1番の終曲で両翼から交わされた歌声の競演は感動的なものであった。それに加へ、素晴らしいホールとの出逢ひ。
但し、終始冷房が強すぎて、コンサート終了する頃にはすっかり手足が冷えきってしまったことだけはいただけませんでしたとさ。
(-。-;)
 
東海バロックプロジェクト - Tokai Baroque Project