音樂に因る浄化の實證

舊暦八月二十一日のタチアナ・ニコライエワ

 

 

 
日々の報道に中に、奇妙なリンクを見出すことがある。
ISISことイスラム國が英國人の人質であるデーヴィッド・ヘインズ氏(44)の首を切り落とし殺害したとする映像をインターネット上に公開した。イスラム國に因る欧米人の殺害公開は3人目である。
ヘインズ氏はスコットランド出身の人道支援活動家とのことで、殺害が眞實と認定された場合、英國政府に因る激しい非難と何らかの報復が予想されるが、スコットランド議會はどのやうな反應を示すのだらう。
間違ひなくスコットランド人のアイデンティティーとナショナリズムは高揚するだらうし、彼を英國人として喧伝する英國政府の態度や報道する世界の情勢に對する不満は募ることだらう。
英國からの独立の是非を問ふ住民投票は9月18日に行はれるとのこと。其の結果はスペインのカタルーニャ自治州独立を問ふ住民投票にも大きな影響を及ぼすことだらうし、其の先にはバスク問題やパダニア問題も控えてゐる。
そもそもイスラム國そのものが、従来の國家概念を再編させ一部の者を覚醒させる存在となりつつあることも、問題を重層化させてゐる。近代國家の概念は民族と言語、即ちアイデンティティーを基盤に、合理的法体系に基づく司法制度を根幹とするとされてゐるが、イスラム國は其処に幻想としてのイスラム原理主義を掲げ、宗教的理想を具現化する為の軍事集團として徒党を為してゐる。彼らに物理的な國境は無意味であり、ともすれば領域概念は無限なのである。*1
我輩は通貨に因る大地域統合である大ユーロ圏構想など机上の空論であり、決して恒久的なものになり得ないと確信してゐた。そもそも民族・言語・風土を異にする英佛が同床に就けるワケが無いし、異夢どころか異次元を歩む両國の精神性とベクトルは決して交わることは無いと思ふのだ。これが両國に短期間であるが居住してみて得た實感である。
とまれ、欧州各地での火種は燻り續けるだらうし、現代國家は洋の東西を問はず最早安定に向かふことは無い。
 

 
 

李香蘭 私の半生 (新潮文庫)

李香蘭 私の半生 (新潮文庫)

*1:事實、彼らの支配地域とされる地圖では神經經絡の如き不規則な網状の分布領域がいくつかの國を越えて示される場合が多いが、それらは概ね古代の主要な交易路を踏襲してゐることに注目すべきである。