骨密度

陰暦十二月二十七日は小雨にけぶるの日

 
 

 
 

 
 

 
 

 
ホラホラ、これが僕の骨だ、

生きてゐた時の苦労にみちた

あのけがらはしい肉を破つて、

しらじらと雨に洗はれ

ヌツクと出た、骨の尖。
 
それは光沢もない、

ただいたづらにしらじらと、

雨を吸収する、

風に吹かれる、

幾分空を反映する。
 
生きてゐた時に、

これが食堂の雑踏の中に、

坐ってゐたこともある、

みつばのおしたしを食つたこともある。

と思へばなんとも可笑しい。
 
ホラホラ、これが僕の骨――

見てゐるのは僕? 可笑しなことだ。

霊魂はあとに残つて、

また骨の処にやつて来て、

見てゐるのかしら?
 
故郷の小川のへりに、

半ばは枯れた草に立つて

見てゐるのは、――僕?

恰度立札ほどの高さに、

骨はしらじらととんがつてゐる。
                   中原中也「骨」