故事回帰の兆し

数年前の秋頃だったか、深夜、近所の路上で狐を見かけた。
狸はたまたまだが、夜に方々で見かける。
昨日、比較的近所で猿を見た。急な上り坂になった自動車道をピョンと横切り、ガードレールの上に数秒座ったと思ったら、下の森の方に消えてしまったが、確かに猿だと思ふ。
そして今日の午後、開け放った玄関から鼬が入り込む姿を見かけ、不覚にも出入り口を閉め切って仕舞ったため、台所の隅や隠居部屋の床下やいろんなところに出没し、竹竿で突っついたり脅したりと文字通り鼬ごっこの数十分。てっきりどこかの隙間から屋外に遁走したものと思ってゐたが、夜になってまたもや台所の片隅でがさごそと音のするなり。もののけけもの、恐るべし。
今回は姿がなかなか見えぬ故、それが直ちに鼬であるとは断言できなかったが、鼠用の毒餌を少し喰ひ散らかした様子もあり、果たして事の顛末はどのやうな行く末を辿るのかしらむと興味半ば、不安半ばで気配を伺ふ春の宵。
身近な小動物が生息できる自然が、戻りつつあるのも事実だ。と言っても、薪炭林としての雑木林が復活したわけではなく、岬の先端近くの此の辺りの森は、放置されて本来の照葉樹林がほぼ極相林として完成しつつあるだけのことだ。
意外にも、此の完成された照葉樹林には雑木林ほどの豊饒さは無く、それではこれら小動物はどのやうに生息してゐるのかと言へば、開発された人里の恩恵をちゃっかり受けてゐるからこそ生存が可能なのだと思ふ。知らないうちに、我々は共生を余儀なくされてゐるのだ。
これらの小動物の復活と共に、民話や神話も人々の心に戻ってくるのかしらむ。それとも、まったく新しい別世界の故事として浸透していくのかしらむ。
いずれにせよ、我がパナリ荘に於ける天敵は百足を筆頭に鼬、鼠、白蟻、蛞蝓など枚挙に暇がないが、春過ぎて夏来たるらし白妙の、様々な天敵と対峙せざるを得ない季節到来の感慨を深める今日此の頃であったとさ。
 

 
 

 
 

 
 

 
 

 
 

 

 
 
 

グルダ・ノン・ストップ

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