薬物

御幼少の頃から各種の薬品類と接する機会が多い環境で育ってきたせいか、薬物に対する興味は人並み以上であると自覚してゐる。
それにしても薬品の名前には魅力的なものが多いな。
とりわけ漢方薬。個々の生薬材料には聞き慣れない漢字や名前が溢れてゐるし、其の集合体である調剤薬品の名前も経典やお題目のやうで奇妙だ。
 
杜仲(とちう)、鬱金(うこん、うつちん)、我朮(がじゆつ)、茴香(ういきやう)、淫羊霍(いんやうかく)、冬虫夏草(とうちうかさう)、枸杞(くこ)、牛黄(ごわう)、麦門冬(ばくもんとう)、半夏(はんげ)、薄荷(はつか)、反鼻(はんぴ)、茯苓(ぶくりやう)、竜骨(りうこつ)、霊芝(れいし)、鹿茸(ろくじやう)、巴戟天(はげきてん)・・・
 
葛根湯などはカワイイもので、補中溢気湯、延年半夏湯、加味逍遙散、九味檳榔湯、紫雲膏、神秘湯、消風散、八味地黄丸、麦門冬湯、六君子湯は未だ序の口。
抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)、柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりうこつぼれいとう)、括呂薤白白酒湯(かろうがいはくはくしゅたう)、桂枝加厚朴杏仁湯(けいしかこうぼくきやうにんたう)、旋覆花代赭石湯(せんぷくかたいしゃせきとう)、当帰四逆加呉茱萸生姜湯(たうきしぎゃくかごしゅゆしうきうたう)などは恐らく一生お世話になることがなささうな名前だ。
また、青竜湯や柴胡湯が有るからといって、青竜湯や柴胡湯が有るわけでもなく、神秘湯逍遙散が有るからといって、混沌散は存在しないやうである。
兎に角、漢方薬の名前には最後に「湯」「散」「丸」が付けばよいやうだから、青椒肉絲麻婆豆腐散なんてうのも広い大陸の何処かには有りさうだが、そんなものは無い。
一方カタカナ表記される西洋的な薬品の名前にも、魅力的なものがいろいろ有る。アセチルサリチル酸だのカルボキシル基パラジクロロベンゼンN‐オキソアミドりん酸ジエチルなどなど、化学物質の名前もかなり扇情的だ。
今夜は八味地黄丸芳香族ヒドロキシカルボン酸冬虫夏草のトッピングしたものでも舐めて過ごさうかしらむ。