逢魔が時の出会ひと別れ

見知らぬ街の黄昏時
此の付近には信号も何もないはずなのに
西行きの車線は渋滞したまま少しも動く気配は無い
歩道を行き交ふ人々も
何故か皆伏し目がちに通り過ぎて行くばかり
さっきまで乳白色で柔らかな巻き毛の律動を見せてゐた絹雲も
今は西の空で黄金色に光り輝いてゐるほどだ
 
「われわれは地を這ふ蟻みたいなもんだな」と
老犬に引かれた男が呟く
 
「やだわけふもお豆腐買ひ忘れちゃった」と
両手に買ひ物袋をぶら下げた女が呟く
 
「こんなに遅くなっちゃってきっと叱られる」と
ともだちのうちで時間を忘れて遊び呆けてゐた小学生が足早に通り過ぎて行く
 
こんなにたくさんの人が道を行き交ってゐるてうに
この街にはわたくしの知り合ひ一人居るわけでなし
こんなにたくさんの車が道に溢れてゐるてうに
街角が静まりかえってゐるのは何故なのだらうか
 
見知らぬ街の黄昏は
心の隙間に浸透し
我が心をも青く
蒼く
碧く染めて行く
そして天の深みの奥底の宇宙の色が
我が人差し指の爪の脇から赤い血の流れる体内に流れ込む時
初めて
黄昏の意味が直観されるのだ