回収工作員

恋路が浜も黄金に沈む

工作現場から持ち帰った有象無象や雑貨や文具や書類の入ってゐたコンテナを引き散らかしてゐたら、節分の頃買った福豆(成田山にて祈祷済み)が一袋出てきたので、開け放った縁側でポリポリポリポリと一心不乱にそいつを喰っておると、裏の路地方面から廃品回収屋のトラックが通り行く気配。
いつもはかなりの音量で安物のスピーカーから「なんでも回収いたします」と宣伝して通って行くのだが、今天は何故か可成り控ゑめの音量だ。我がパナリ荘領域内にはさまざまな回収対象物が潜在してゐることは確かだが、最大の懸案であった化石的ホンダライフや物置の奥深くに眠ってゐた脱穀機、我乍らいったいどのやうにして運んできたのかよーわからんかった簡易印刷機やオフロードバイクの残滓などは先年日系人によって回収されて行ったので、今回は頼むことは無からうと高をくくって、それでも色々と脳裏の隅を突っつき乍らも福豆を喰ひ続けてゐた。
しかし、眼前の柿の木に俄に飛来したヒヨドリの鋭き鳴き声を聞いた途端、来歴不明の大きな衝立が倉庫に眠ってゐたことを思ひ出し、慌ててトラックを追ひかけるも、どんどんと行って仕舞ふ。我輩と軽トラックの距離は僅か10mばかりであり、さほど積み荷も多からず、ルームミラーからも後方は容易に確認できる状況であったのだが、トラックは止まらない。いくら田舎とは言へ、村中瀬古道路上で大声を出したりトラックに礫を投げつけたりして仕舞ったのでは、潜伏中の工作員としては失格だ。結局、つっかけ草履で数十メートル追ひかけたもののそれ以上の追跡を諦め、貪り喰ってゐた福豆の影響で喉を詰まらせて頓死しさうになったので爽健美茶で喉を潤し、庭のあれこれの春向きの設へ工作にしばし励んでゐたのだった。
そんなこんなで数時間、西の方に僅かに黄昏の気配を感じ、いつものやうに自転車で岬に向かはむと路地に漕ぎ出した途端、中国的に荷物を満載した廃品回収トラックと遭遇。日本人らしからぬ運転手と目があったので、今度はいつ来るかと問へば、「ワカラナイ、デモ、サッキヨンダカ?」とのお返事。
やはり日系人らしい此の運ちゃんは初めて見る顔だが、「サッキ、ヨンダヨ。ワカランカッタカ?」と聞くと、「ワカッタワカッタ。デモ、オヒルニコンビニイクカラ」とのお言葉。さうか、あの時はお昼時で、御客様よりコンビニの方が彼にとっては重要であったのだな、と無理矢理納得しておき、「ツギ、イツ、クルダ?」と再度尋ねると、「ワカラナイダ」とのこと。
これ以上のコンタクトは無駄と考へ、Adios して岬へ。春の海は遠方が靄の中に沈み、穏やかで静か。常世浪のまにまに、室内工作で溜まった疲れを流すなりけり。
    
     
今宵春宵、満月拝顔。
   
    

菜の花では御座ゐませんよ