少年時、青年時、そして中年時の日常風景は・・・

       
      

黝(あをぐろ)い石に夏の日が照りつけ、
庭の地面が、朱色に睡つてゐた。
     
地平の果に蒸気が立つて、
世の亡ぶ、兆(きざし)のやうだつた。
     
麦田には風が低く打ち、
おぼろで、灰色だつた。
      
翔(と)びゆく雲の落とす影のやうに、
田の面(も)を過ぎる、昔の巨人の姿――
   
夏の日の午(ひる)過ぎ時刻
誰彼の午睡(ひるね)するとき、
私は野原を走つて行つた……
      
私は希望を唇に噛みつぶして
私はギロギロする目で諦めてゐた……
噫(ああ)、生きてゐた、私は生きてゐた!
   
しかし今はまう、大寒の頃、
世界の滅びの兆したる蒸気も今が盛りと、
春を待つ私を包み込む。
     
そして私は、
時空を懐に包み込み、飲み込んでやった。