氷の皮膜を通して見る世界の奇妙に歪んだ情景の中だけに展開する物語


冬の寒い朝早く、恐る恐る水面に張った氷の1枚を手にしてみると、なぜか我々人類の指先に蛙の指先のやうな吸盤が発生したかの如く見ゑるから不思議だ。
                  

氷を通して見る快晴の青空は、なぜかいつかチベットで見た青黒い宇宙色の蒼天に似て、繊細且つ官能的な粘膜から真空の深みを覗き見る心地のするらむ。
     

そして今天の午後の光は、赤色の環状光に囲まれたゲル状の群青色と時空そのものを歪ませ撹乱しつつ、やがて自ら溶け去り行き我が指先と袖口を濡らす。