民の竈より煙り立つ見ゆ

けぶりたつみゆ

久しぶりにパナリ荘に帰宅し、といってもほぼ毎週末は帰ってきてゐたのだけど、文字通りのトンボ返りが多くぢっと腰を落ち着けてCDの1枚も聴くでなし、ましてや学術書の1冊を読み切るでもなく、ただあわあわと中途半端な食事と工作時間と往復に要する数時間の車中の虚しい緊張感に翻弄されるばかりで、抱へてゐる案件は何一つまともに片付かず、いつもとは違った様相に引き散らかされた部屋の方々に堆積しはじめてゐる資料や物品を横目で眺めつつも、幸ひなことにやりたいこととやらなければならないことの区別はまんだ比較的明瞭なのだけど、取り敢へずは畳の上に腰を下ろし(招待所では椅子の生活)新暦年末年始の四五日間の自由時間を有意義に過ごすための第一歩としてどのやうな曲をかければよいのかてうことを、牛の乳をたっぷり入れた珈琲片手に考へ、第1曲は盛大にベートーベンの第7交響曲で元気を付けやうかしらむとも、それとも先日秘密裏に入手しておいた DAVID RYRNE & BRIAN ENO のNEWアルバム "EVERYTHING THAT HAPPENS WILL HAPPEN TODAY" にしやうかしらむと最終選考思案の結果、意外にもエンヤ姫のNEWアルバムである "AND WINTER CAME..." になって仕舞ったことは我ながら驚いたものだが、冒頭が決まって仕舞へば其ノ後は自ずから決まってくるもので、2枚目は COLD PLAY の2枚組みアルバム "VIVA LA VIDA PROSPEKT'S MARCH EDITION" そして DAVID BYRNE & BRIAN ENO → SAMSON FRANCOIS の弾く DEBUSSY の映像第1集・第2集、2つのアラベスク、よろこびの島を経て、やうやうBEETHOVEN の番が回ってきたのだが、7番だけ聴いて9番を聴かないてうことは季節柄許されず、只今第1楽章の宇宙の開始音の部分。勿論最大音量で・・・
   
雪と氷の旋律 美しき生命~プロスペクツ・マーチ・エディション Everything That Happens Will Happen Today (HQCD盤) [歌詞対訳・解説・ボーナストラック収録・国内盤] (BRC218)
   
ドビュッシー:ピアノ曲集第2集~映像、他 ベートヴェン:交響曲第9番
   
エンヤ嬢と言へば、新暦晦日には此の冬の我が極東の島国に御来訪遊ばせ、紅白歌合戦(戦ひだったのですね)に御出演なさいますことを、縁も所縁も深い鶴岡先生のブログで知り、例年は見向きもしない此の電子節目を、今年ばかりは少し覗いてみやうかななどと思ってゐる次第。公式ホームページを見ると、此の頃は出演順序も曲目も公表されており(昔から?)、エンヤ嬢は「企画」として SAVE THE FUTURE に協賛して?の出演で、曲目は「オリノコ・フロウ〜ありふれた奇跡」とある。女性でありながら紅組にも白組にも属さず、前半と後半の境界に出現するてう扱ひが彼女の神秘性を良く表してゐるが、メドレーなのかしらむ。「ありふれた奇跡」はフジテレビのドラマの主題歌らしいが、原題は DREAMS ARE MORE PRECIOUS だ。そのいきさつは以下、フジテレビのホームページから引用。
   

     

山田太一さんが脚本を手がけ、仲間由紀恵さん、加瀬亮さんが主演する木曜劇場ありふれた奇跡』(2009年1月8日木曜夜10時スタート)の主題歌は、エンヤの『DREAMS ARE MORE PRECIOUS』(邦題『ありふれた奇跡』)に決定しました。
トータル・アルバム・セールス7000万枚以上、グラミー賞4回受賞アーティストであるエンヤ。この楽曲は、11月12日にリリースされる7枚目のオリジナル・アルバム『雪と氷の旋律』(原題’And Winter Came...’)に収録されています。なんと、エンヤの楽曲がドラマの主題歌になるのは世界初のことです!
今回、ドラマを手がける長部聡介プロデューサーは、「孤独と絶望を抱えながら生きる男女がささやかな希望を見出すまでを描いたドラマの主題歌にはこの人しかいない!」とエンヤに主題歌をオファー。10月上旬に開かれたロンドンでのアルバム完成記者会見後に、エンヤとミーティングが行われました。そこではドラマのテーマに関してエンヤとの熱い議論がかわされ、ドラマの内容に深く感銘を受けたエンヤから、ドラマの趣旨に合う曲として「ありふれた奇跡」を主題歌にして欲しい、と最新楽曲を提供されたのです。
エンヤが特に心を動かされたのは、日本人の死因の第6位が自殺ということだったそう。エンヤの母国アイルランドから見ると日本は繁栄を享受している非常に豊かな国に映るようですが、実は年間3万人以上の自殺者がいて、孤独と絶望にさいなまれている人が非常に多いという事実に驚きを隠せなかったようです。だからこそ「現代社会に生きる孤独な人間が不器用に交流し、心を開いていくことによって希望を見出していく」というテーマに深く感銘を受けたのでしょう。「私はこのドラマのテーマに非常に感銘を受けました。是非このドラマに曲をご提供したいと思います。このドラマに関わることが出来て大変光栄です」とエンヤが言えば、プロデューサーとしてエンヤと20年以上も活動を共にしているニッキー・ライアンも、「あなた方がこのドラマを通して伝えようとしているメッセージはとても素晴らしい」と語っています。
一方、およそ12年ぶりに連続ドラマの脚本を担当することになった山田太一さんもエンヤが曲を提供してくれたことに対して、
「大喜びです。ドラマの中のひとりが、ケルトアイルランドを愛しているのです。エンヤさんが協力してくださるなんて思ってもいなかった時に書いたので、びっくりしています。CDはずっと聞いていました。自分のドラマに力が貰えるなんて凄いです。ダブリンで自作の芝居を公演したこともあり、アイルランドが好きなのは私のことです。『ありふれた物の中に奇跡が隠されている』という歌の一行は、まさに私の思いです」と語っています。なお、エンヤはアルバムをリリース後、11月下旬にプロモーション来日する予定です。
   

   
新暦のおおつごもりとは言へ、冬てう季節に捧げられたアルバムを発表されたばかりの極西の歌姫エンヤ嬢の来日とTV出演は、冬至の日に手元に届けられた鶴岡先生の訳本『ケルトの芸術と文明』同様、再生の季節の象徴として広く其の歌声が極東の島々の隅々にまで浸透する様子を想像させ、なにかしら心躍るものがある。
我輩でさへかうなのだから、当の鶴岡先生にとっていればそれはそれはこころさざめくものがあるに相違ない。