暁月往来

黄昏のまちかど

春彼岸の入りて、正月もはや晦。
昨天の北風の名残が時折、ばうばうと吹き回り、近所の高層マンションからは洗濯物がいろいろ降って来る。今天は少しも部屋から出ない予定だったが、夕刻前川沿ひの堤防道路に出て上流方向を眺めると、遥か彼方に神々しき雪山の姿見ゆ。
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一晩寝て、矢張り体の其処此処が痛い。でも骨折だのひび割れだの何だの、大事になりさうな部分は無い様子。安易な自己判断に因れば、打ち身捻挫で全治三日間てうところか。トニモカクニモ、御用心御用心。
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何処か見知らぬ町に飛び行く者や、コビト従へ飛び去るヒト有れば、遠き亜大陸より飛び帰る人有り。ヒト様の動きが時間を動かしてゐるのか、時間がヒト様の行動を促してゐるのかはよくわからんが、春風駘蕩、春の蠢きは人々の往還も盛んにし、時候は此の世と彼岸の往来をも促す?
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このところ立て続けに、NHK大河「風林火山」を見てゐる。主役の山本勘助役の役者、内野聖陽は成る程精悍な男前だが、どんな経歴でどんな作品に出て来たのかは全く知らん。武田信虎役の仲代達矢は相変はらず、クロサワ作品の暗く湿った押し入れから引っぱり出して来た煎餅布団の万年床のやうな奇妙な演技を続けてゐるが、可成り浮いてゐる。浮き過ぎて今夜は遂に息子らに謀反を起され、甲斐の国から追放されてしまったやうだが、致し方あるまい。しかし、これらクセのある役者たちを圧倒する存在感を発揮してゐるのが、武田晴信こと後の謙信役の市川亀治郎であらう。歌舞伎で鍛へられた減り張りの利ゐた滑舌の良さは、見る者に依っては太平の眠りを覚ます上喜仙、煩はしくケレンに過ぎるとさへ思はれるだらうが、我輩は好きだな。同時に、堂に入った演技や表情、仕草の隅々にまで神経が通ってゐる様子が手に取るやうに看取でき、これだけは舞台講演ではワカラヌことなので、テレビならではのこと。そんなこんながハイヴィジョンだったら更に細部が見へてしまうワケで、今時の役者は今までと違った”何か”を求められてゐるのだらうね。