三椏の花が咲いたよ

外側から開花

カール・ジェンキンス博士の創り出す音楽はどれも神秘的で、味わい深い。去年の2月14日には、偉人自ら江戸に参上し、有楽町の東京国際フォーラムでのアディエマスのコンサートに臨んだのだが、その際当時の最新アルバムであった「ADIEMUS V -Vocalise-」からの演目も多く、その古典曲の大胆な声楽的変容に感動したものだ。ロビーでは当然過去から現在に至るまでのCDやプログラムが販売されていたが、思わず手にした最新アルバムジャケットに貼られた<CCCD>てう小さなシールが気になって、購入しなかった。
<CCCD>とは即ち、コピーコントロールコンパクトディスクの略であって、<CCCR>とは意味が違ふのだ。いまだにこのシステムは評判悪く、音楽業界衰退の一因をも担ってゐるのではないかと思ふが、長々とした注意書きのなかには、電脳窓式制度下では作動しないこともないが、林檎式制度下は作動論外であるなどてう失敬千万なことが記されてゐる。日常林檎式電脳を使用せし我輩としては、コピーコントロール自体も不快だが、林檎式への不遜な不対応宣言が最も気に入らんワケで、頗る不快も自乗の三倍てうワケだ。そんなこんなからいつしか1年以上もの年月が経過し、CCCD制度が廃止されたワケでも何でもないが、今回は中古としての遭遇であり百八歩譲って購入と相成った。1200円也。
1995年に発表された「聖なる海の歌声/Song Of Sanctuarly」における創造言語アディエマス語に因るヴォーカリーズは衝撃的で、NHKの番組で流れるその不思議な音楽言語を、必至で聴き取らうとしてゐたことを思ひ出す。グレゴリアン・チャントのやうでもあり、ジャズのスキャットのやうでもあり、アフリカン・チャントのやうでも、中世世俗歌曲のやうでもある。いはば分類不可能(分類不要)なその楽曲は神秘的で、その後エニグマヴァンゲリスやホルガー・チューカイ方面への再認識を促す作用があったことは確かである。
この「ヴォーカリーズ」てうアルバムでは、ベートーベン、ショパンシューベルトラフマニノフなどの古典曲を自由に声楽的変容せしめ、別世界を開いてゐる。そこにはかつての神秘主義的雰囲気は希薄であるものの、本人の創作曲である「ドナ・ノビス・パチェム」や「旋律の中の悪魔」などにその片鱗を見いだすことはできる。この寒空の下、咲き始めた三椏の黄色い花にも少し、聞かせてあげませう。
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アディエマス・ファイヴ~ヴォーカリーズ(CCCD) 聖なる海の歌声 ザ・モスト・リラクシング?フィール3 ”ピース・オブ・マインド”